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床面をチェックするロボット「Floor Doctor」(株式会社イクシス)を押して歩くと、カシャッ、カシャッと連続した音が聞こえます。
これは1枚ずつ床を撮影している音で、スムーズなその作業を実現したのが、オープンイノベーション交流会を通じた2つの企業の出会いでした。
社会課題の解決へ向けて新たな可能性を生み出した、技術マッチングの事例をご紹介します。
時間と手間のかかるコンクリート床面の検査
大規模物流倉庫が増えている近年、現場で課題となっていることのひとつがコンクリート床面の検査です。
乾くと必ずひび割れが入るコンクリートを目視で点検し、補修するという膨大な手間を要していた作業に革新をもたらしたのが、株式会社イクシスが開発したロボット「Floor Doctor」。
イクシスは、社会・産業インフラ向けロボットを活用したAIデータサービスの提供により、さまざまな社会的課題を解決しています。
コンクリートの床面チェックは多くの人員を必要とするだけでなく、不自然な姿勢を続けるために体にも大きな負担となります。2019年に開発された「Floor Doctor」は、現場で押して歩くだけで床面を撮影でき、その画像をイクシスに送ることでAI解析され、構造物の図面と重ね合わせて出力されるというものです。ひび割れの幅や長さも自動で積算されることで補修材の必要量までわかるという画期的なロボットは、現場での作業を大幅に軽減しました。
当時の課題は「網羅性」で、床面をくまなくチェックするために、ロープを張ってガイドラインとしていました。2020年にはARの採用により、床面を映すモニターにガイドラインを表示することで、この課題も解決。新技術によってさらに使いやすくなった「Floor Doctor」は、多くの企業から注目を集めました。
マッチングのきっかけとなった「オープンイノベーション交流会」
「Floor Doctor」は、歩くことで1枚ずつ床面を撮影していきます。その際にストロボを使用するため、1枚を撮影するたびに約2秒間のチャージ時間を要していました。10メートル四方をチェックするには、約30分かかります。現場での作業時間を短縮し、高速化することが新たな課題となっていました。
その頃に開催されたのが、さがみロボット産業特区と神奈川県立産業技術総合研究所(KISTEC)の連携事業「オープンイノベーション交流会」です。生活支援ロボットの実用化を進めるために、優れた技術シーズを持つ企業を紹介し、その活用を希望する企業からの提案を募集するイベントで、2020年11月20日、オンラインにより実施されました。
画像処理技術を活用している事例として、株式会社イクシス代表取締役Co-CEO兼CTOの山崎文敬さんが登壇したこの交流会に、シーシーエス株式会社 国内営業部門の大澤茂さんも登壇していました。他の登壇者とともにオンラインで事前の顔合わせが行われた際に、山崎さんが話した「Floor Doctor」の課題について、大澤さんから「私たちのLED照明が使えるのでは」と提案。登壇した企業同士でのマッチングがスタートしたのです。
くまなく撮影できるLED照明とレイアウトを探る
シーシーエスは検査用LED照明で国内外のトップシェアを誇り、LED照明技術のコンサルティングや画像処理用LED照明を提供しています。「Floor Doctor」の担当となったのは、国内営業部門 MVソリューション部兼新規アプリケーション開拓課担当部長の稲本祐司さん。まずは照射範囲と深度が異なるナロータイプとワイドタイプという2種類のLED照明を、イクシスへ送りました。
シーシーエスの本社がある京都から、川崎市のイクシスへ稲本さんが初めて出向いた時、現場ではすでに「ナロータイプ」が良いのでは、という声が出ていました。照射範囲が狭く、深度が深めのナロータイプを「Floor Doctor」に取り付け、実際にコンクリートの床を撮影しながらの実験が始まりました。
その後も、両社のやり取りが繰り返されます。山崎さんは、「ナロータイプの明るさは必要。でも、やっぱり縁の部分はちょっと光が足りないという結果になりました」と、当時を振り返ります。そこで2台のLED照明で構成したところ、課題はクリア。その後は、床面との距離の模索が続きます。明るくするためにできるだけ近く、ただしカメラのなかには入らない位置からどう照射するか。真上から照射するとハレーションが起こるため、少し斜めに傾けるなど試行錯誤を重ねた結果、ついに基準を満たすVer.3が完成。撮影時間は、Ver.2の約半分に短縮されました。
さらに高まる、オープンイノベーションの価値
オープンイノベーションによって実現した技術マッチング。「Floor Doctor」が建設業界でより一層の注目を集める今、山崎さんは「シーシーエスさんなどの大手企業とつながることのできるこのような場は、私たちにとってもすごくありがたいことです。私たちは4年前にロボット開発ベンチャーからロボットを使うサービスに転換したことで、お客さまも増えています。ニーズも広がるなか、社員だけですべてを解決するというのはなかなか難しいので、オープンイノベーションは大切な機会ですね」と語ります。
稲本さんは、「AIによる外観検査の精度を向上させるには、良品・不良品とわかる画像がしっかり撮れるということが重要で、照明やカメラ、レンズの選定が大切だということを、これまで多くの場でお伝えしてきました。そんななかで、今回のようなロボットの改良に弊社の技術が役立つ機会をいただいて良かったと思っています」とのこと。「これまでインフラ系の点検の分野とのつながりはなかったので、弊社の技術が新たにアプローチできる可能性があるとわかりました」と笑顔で語りました。
社会インフラの課題解決で貢献するイクシスと、検査用LED照明のリーディングカンパニーであるシーシーエス。そのマッチングにより進化したロボット「Floor Doctor」。優れた技術が公開されることで、企業間交流のきっかけとなり、新たなイノベーションが創出されていきます。
さがみロボット産業特区では、今後も幅広い技術マッチングを力強くサポートしていきます。
企業の概要
- 企業名
- 株式会社イクシス
- 所在地
- 神奈川県川崎市幸区新川崎7-7 かわさき新産業創造センター(AIRBIC)内
- 従業員数
- 70名(2021年12月時点)
- 設立年月
- 1998年6月2日
- ホームページ
- https://www.ixs.co.jp/
- 企業名
- シーシーエス株式会社
- 所在地
- 京都市上京区室町通出水上ル近衛町38
- 従業員数
- 259名(連結従業員数 372名)(2021年12月末現在)
- 設立年月
- 1993年10月
- ホームページ
- https://www.ccs-inc.co.jp/