さがみでつながる!開発企業インタビュー

ロボット×テクノロジーで、
社会インフラの課題を解決する。

EC市場の拡大とともに、全国で建設されている大規模物流倉庫。多大な労力を要していた引き渡し前の検査に革新をもたらしたのが、株式会社イクシスのロボット「Floor Doctor」です。
他社との技術マッチングなどを通じた開発の歩みについて、代表取締役Co-CEO兼CTOの山崎文敬さんにお話を伺います(記載内容は2022年度時点のものです。)。

インタビュー

山崎 文敬

株式会社イクシス
代表取締役Co-CEO兼CTO

1998年、大学在学中に同社設立。2000年より科学技術振興事業団ERATO北野共生システムプロジェクト技術員を務め、ヒューマノイドロボ「PINO」を開発。2003年より阪大フロンティアリサーチ研究機構(阪大FRC) 特任研究員。2013年より日本ロボット学会代議員。2018年9月に代表取締役Co-CEO兼CTO(共同経営者)に就任。受託開発を主業とする技術集団企業から各業界の本質的問題を解決する事業会社へと新たなスタートを切り、業務を推進する。

山崎 文敬(株式会社イクシス)
モニターに映し出されるガイドに沿って歩くと、自動で撮影される。
目視でチェックしていた
ひび割れ検査の負担を軽くするために

──はじめに「Floor Doctor」のことからお伺いしたいと思います。このロボットは、どのような課題を解決するために開発されたのでしょうか?


近年はネット通販が盛んになって、物流倉庫が次々と造られています。最後の引き渡し前に検査をするのですが、その項目のひとつがコンクリート床面のひび割れです。コンクリートというものは、乾くと必ずひびが入ってしまうものなんですよ。それを補修するためにチェックするんですが、以前はこれを目視で行っていました。0.2ミリなどのひびを見るためにしゃがんだ姿勢で、広い倉庫の床面をずっと見ていくので、現場では大変な負担と時間を要していたんです


──「Floor Doctor」によって、どのようなことが可能になりましたか?


「Floor Doctor」は手押し式で、カメラが下向きに付いています。これを押して歩くだけで、誰でも簡単に床の写真を順番に撮れるんです。ただ、2019年のVer.1の課題は「網羅性」でした。やはり人間ですから、5メートル、10メートル歩くと蛇行してしまう。すべての床面を撮影するために、最初は床にロープを張って、それに沿って歩いてもらうという、原始的なコンセプトで作っていました。


──顧客となる企業さまの反応はどうでしたか?


建設会社など20社ほどに集まっていただいて「Floor Doctor」をご紹介しましたが、残念ながらほとんどの企業さまには見向きもされませんでした。1枚写真を撮って、1メートル前に進んで、またパシャッと撮って……。広い倉庫のチェックですから、そんな時間はかけていられないということですね。その中でも1社さまだけが、試しに使ってみたいとおっしゃってくれたんです。


──いよいよ現場での活躍がスタートですね。実際に使用されてからは、どのような意見をいただきましたか?


「Floor Doctor」はストロボを焚きながら撮影するんですが、その電池が切れていて撮影されていなかったり、カメラのレンズにキャップをしたまま撮って、写真が全部真っ黒だったりとトラブルも多くて、途中から我々が行ってお手伝いをしていました。こんなスタートだったので、お客さまからは「これはちょっとないよね」という厳しい言葉も出ました


──厳しいご意見と同時に、喜んでいただけたこともあったのではないでしょうか?


そうですね。唯一喜ばれたのが、撮影したデータを我々に送っていただくことで、写真からAI解析して図面に落とし、ひびの幅と長さを全部自動で積算して、補修材が何リットル必要ということまでわかるということです。ここの作業はお客さまが全くしなくてよくなったということで、デメリットばかりでもないとわかっていただけたと思います。


撮影に時間がかかるという課題を、
交流会を通じた企業マッチングで解決
オープンイノベーション交流会を開催した神奈川県立産業技術総合研究所 事業化支援部の櫻井さん(右)と守谷さん(左)

──後処理のほうは評価されたということですが、現場における課題にはどのように取り組まれたのでしょうか?


現場作業をいかに簡単にするかということで、まずはリアルにロープを張ってガイドにしていたのをなくそうということになり、AR(拡張現実空間)の技術を採用しました。「Floor Doctor」に取り付けたモニターの画面上に、バーチャルにラインを引くんです。あとはそのラインに沿って歩いてもらえばいい。2020年に完成したVer.2は、この新技術で一気に注目を集めました。5、6社さまから使ってみたいというお話をいただきましたね。


──ARを取り入れて、Ver.2へ大きく進化したんですね。次はどんなことが課題になったのでしょうか?


手押しから自動化にするという方向もありましたけど、実はそれほどニーズは多くはないんです。引き渡し時の床は全面を一度にチェックできるわけでなくて、今日はここにトラックを置いてるから他のところ、というように柔軟に対応する必要があります。そのためには手押しのほうが便利なんですね。そうすると、あとはいかに短い時間で撮影するか、というのが最大のニーズになるわけです。


──撮影時間の短縮という課題解決に向けて、さがみロボット産業特区と神奈川県立産業技術総合研究所の連携事業である「オープンイノベーション交流会」がきっかけになったとお聞きしています。どのような経緯だったのでしょうか?


2020年11月の「オープンイノベーション交流会」ですね。ロボット関連分野の技術連携のために、技術シーズを持つ3社が登壇し、私もその1社として事例紹介することになりました。その時に出会ったのが、同じく登壇されたシーシーエス株式会社さんです。事前にオンライン上で顔合わせをした時に私たちの課題を話すと、登壇者である大澤茂さんが、「シーシーエスのLED照明が使えるのでは」と言ってくださり、マッチングの話を進めることになりました。


──シーシーエスさんは画像処理用LED照明の開発をされている企業ですが、どのような形で連携が進められたのでしょうか?


私たちがまずお願いしたのは、写真を撮影する際に、ストロボのチャージ時間が不要なLEDライトで、かつ画面の端のほうまでまんべんなく光が届く照明を、ということでした。最初は1個のLEDで、まだ少し光が足りないので2個をレイアウトして、さらに床との角度や距離もいろいろと試しました。シーシーエスさんとの細かいやり取りは何度かありましたが、大きな打ち合わせは3回だけですね。4か月後の2021年3月には新たなバージョンが完成したので、とても速いスピードだったと思います。それまで課題だったストロボのチャージ時間がなくなり、撮影時間が半分になったことで、高速な検査が可能になりましたマッチング事例(株式会社イクシス✕シーシーエス株式会社)はこちら


──現場での高速化という大きな課題が解決されたわけですね。後処理のほうも、新たな展開はあったのでしょうか?


毎日2万~3万枚の画像解析をしていますが、以前は完全自動ではなかったので夏休みなども解析処理をストップするわけにいかず、社員が順番に処理を回していました。今は全自動でできるので、きちんと休めています。最後にチェックをして、少し修正したりするだけでお客さまへ送ることができるので、データ解析も進化したということですね


麻痺していない手と連動してサポートする「モーションリフレクト式パワーアシストハンド」
ロボットを作るのではなく、
ロボットを「使うこと」を考える

──先ほど「オープンイノベーション交流会」のお話を伺いましたが、他にさがみロボット産業特区から受けた支援はありますか?


「Floor Doctor」につながる社会インフラの維持管理ロボット群の開発が、2018年度の「ロボット実用化促進補助金」に採択されました。Ver.1はこの補助金でサポートしていただき、さがみロボット産業特区から商品化されました。Ver.2ではオープンイノベーション交流会のマッチングでシーシーエスさんとつながることができたということですね。さがみロボット産業特区や神奈川県立産業技術総合研究所の方々と定期的にコミュニケーションを取っていると、いろいろなご案内があるのでありがたいです


──今後、さがみロボット産業特区に期待することは何でしょうか?


私たちのロボットは部屋のなかで完結する商品ではなく、必ず「現場」が要ります。実際に動かしたり、評価したりという工事現場をこれまでにもご紹介いただいているのですが、今後も課題のある現場と、私たちがうまくつながってソリューションを提供する機会を作っていただきたいというのが、一番期待していることですね。


──今、「Floor Doctor」が使われる現場はどれくらいに広がったのでしょうか? また、今後の展望についてお聞かせください。


今は全国で30社くらいでしょうか。数年前から全国に拠点を作っていて、作業床面積に比例した料金体系で「Floor Doctor」のサービスを提供するなどしています。解析データの納品が3次元でできて、現場も楽になるということで、いろいろな所からお声がかかっています。今の公共工事は単純に金額の入札ではなくて総合評価なので、新技術を入れると加点になるという面もありますね。今後、全国の地場の皆さまがもっと気軽に使えるようにしていきたいと思っています


──最後に、さがみロボット産業特区に関心を持っている企業さま、技術者の皆さまに向けて、メッセージをお願いいたします。


私は、ロボットを作りにいくと失敗すると思っています。作るのでなく、「使うこと」を考えると成功するんですよ。私たちは4年前に、ロボット開発ベンチャーから、「ロボットを使ったサービス」に転換をしました。「Floor Doctor」は手押しの半自動ですが、技術者としてはついつい、ロボットを高度化したくなってしまいます。だけどよく考えると、これはロボットではなく業務を提供する話です。後処理まで考えたら、トータルで時間が短くなればいい。私たちはロボットを作って終わりの会社ではなくて、現場に入るところまでがミッションですから。そういう視点で見ていただくと、もっともっとロボットの活用が進んでいくのではないかと思います。

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