
ご利用者様と職員の負担が大幅に軽減
さがみロボット産業特区では、県内施設におけるロボットの活用を推進するため、ロボットの導入実証等さまざまな支援を行っています。今回ご紹介するのは、「社会福祉法人若竹大寿会 介護老人福祉施設 わかたけ富岡」(以下、わかたけ富岡)のロボット導入事例です。
わかたけ富岡では神奈川県の「ロボット実装促進事業」内の「導入実証サポート」を活用しておむつセンサー「おむつナビ(旧介護Plus)※」を導入し、排泄介助におけるご利用者様と職員の負担を大幅に削減しました。わかたけ富岡の藤井さん・加藤さん・市川さんと、「おむつナビ」の開発会社である株式会社光洋の成田さんに、導入前の課題感や成果などについてお話を伺いました。
※「R5年度ロボット実装促進事業」採択時は開発段階の為「介護Plus」という製品名で、商品化後の製品名は「おむつナビ」となる。

藤井 大祐 施設長
加藤 綾 前介護長
市川 修 介護長
社会福祉法人若竹大寿会 介護老人福祉施設 わかたけ富岡
成田 優衣
株式会社光洋
排泄介助でのご利用者様と
職員の負担軽減のため、
「導入実証サポート」に応募
──おむつセンサー「おむつナビ」を導入前、施設ではどんな課題がありましたか?
わかたけ富岡 加藤さん:わかたけ富岡では、ご利用者様の移乗にリフトを活用したり、飲み物にとろみサーバーを用いて一定の基準で飲み込みやすくしたり、入浴にマイクロファインバブルを用いたりと、介護職員の負担軽減と質の向上に積極的に取り組んでいます。
しかし、排泄介助だけは改善が行われず、特にアセスメント(ご利用者様の情報を集めて分析し、必要な支援を明確にするプロセス)にかなりの手間がかかっていました。30分おきに職員が排泄のチェックをするため、ご利用者様と職員双方にとって負担だったのです。日常業務でも、職員がおむつ交換をしたら何も排泄が無い、またはトイレにご案内しても排泄が無い、いわゆる"空振り"が多くありました。
──ロボット実装促進事業の「導入実証サポート」に応募された際は、どのようなことを期待されましたか?
わかたけ富岡 加藤さん:排泄介助の分析を自動化したいという期待がありました。というのも、アセスメントの分析では30分に1回のペースで排泄を確認して、排尿後はパットの重さを測って排尿量を確認し、表計算シートに手入力していたので時間も手間もかかっていたからです。介護用ロボットやIoTデバイスを導入したら、分析を自動化でき、時間と手間が削減できるのではと考えました。
また日常での排泄介助の回数は多い方が良いという意見もありますが、適切なタイミングだけ排泄介助を行った方が、おむつによる肌トラブルが軽減される上に丁寧なケアもできると考えました。
──ロボット実装促進事業の「導入実証サポート」はどのような経緯でお知りになりましたか?
光洋 成田さん:背景として、以前より弊社のおむつを、わかたけ富岡様で使っていただいていました。当時の施設長様と弊社の担当者で介護用ロボット導入を検討し、「導入実証サポート」を受けながら「おむつナビ」の導入を進めていくことになりました。
──「介護Plus」の運用の決め手は何でしたか?
わかたけ富岡 加藤さん:当法人は介護の質を高めることなら積極的に取り入れようとする雰囲気があります。そのため、社内からの反発があまりない中で運用を決められました。
そのなかでも、職員が「おむつナビ」にとても興味を示してくれたのが大きな決め手となったと思います。試しに導入した際に、排尿状況がわかるタブレットの画面を興味深そうに職員たちが見ていたり、「これ使ってみたいです」という声もありました。最終的には、法人内の施設の介護長たちが集まる介護部会で賛同を得られたため導入に踏み切りました。
介護現場のトイレ誘導時の
空振り回数が75%削減に成功
──本格的に導入される前に、4日間限定の試用期間を設けられましたが、そこで得られた成果と課題についてお聞かせください。
わかたけ富岡 加藤さん:試用期間では対象のご利用者様を、トイレ誘導タイミング最適化とおむつ交換タイミング最適化の2つに分けてトライさせていただきました。
成果として、おむつ交換タイミングの最適化で、パッドの吸収率70%以上を不快ゾーンと設定し、「おむつナビ」を導入したことで不快ゾーンの時間を短縮することができました。不快ゾーンが7分から2.4分になった方や、10分が1.7分になった方もいらっしゃいます。また、職員の7割が「身体的な負担軽減を感じた」というのも大きな成果でした。
一方で課題として、「精神的な負担軽減を感じた」と答えた職員は全体の4割と半数を下回ったことが挙げられます。試用期間が4日間だけというのも影響していると思いますが、「おむつナビ」の使用に慣れていなかったり、パッドの吸収率の変化がついつい気になったりする職員がいたようです。
──その後、2か月間の本稼働となりましたが、「おむつナビ」を入れてみて何か変化はありましたか?
わかたけ富岡 加藤さん:大きな成果として、排尿タイミング取得に要する時間を約90%削減できました。アセスメントの分析で、以前まで職員が排尿量を測って、表計算シートに手入力する必要がありましたが、「おむつナビ」によってその手間が無くなりました。
ご利用者様にとってパッドの使用感が良かったのも成果だと思います。以前、法人内の別の施設で別のパッドとセンサーを試したところ、使用感があまり良くなく、多くのご利用者様が外してしまうケースがありました。今回はお一人だけを除いては、外すことなく、通常のおむつと同じ使用感で着用いただいています。
光洋 成田さん:おむつ交換タイミング最適化のチームでパッドの交換回数が26%も減り、それに伴い、1回1回の排泄介助でより注意深くケアできるようになったと聞いています。
「交換回数が少なくなると、スキントラブルが起きてしまうのではないか」というお声をいただくことがあるのですが、わかたけ富岡さんの場合は交換回数が少なくなることで「皮膚の状況により意識が向くようになった」とお声をいただいています。職員さんの負担が減ることで、排泄介助にさらに意識が向くようになり、最終的にご利用者様に還元されるようになったのが印象的でした。
──2025年春頃より「おむつナビ」を本導入されて半年ほど経ちますが、現場から何か感想は届いていますか?
わかたけ富岡 市川さん:職員に関して言えば、「おむつナビ」を入れて空振り回数が75%も減ったことで、職員の心の余裕が生まれました。浮いたリソースは特定の業務に当てているわけではないのですが、時間と心に余裕ができたことで、丁寧なケアや普段手が回っていないような業務ができるようになったと思います。
わかたけ富岡 加藤さん:排泄データを集めて排泄時間を予測して、トイレにお連れすることも可能になりました。そうすることで、パッドの中ではなく、トイレでしっかり排泄できる回数が増えています。こうした先手のケアができるのは、「おむつナビ」の強みだと思います。
また、成田さんと市川さんのおっしゃるとおり、職員が1つ1つの仕事をより丁寧に行う余裕ができたのは、予想していなかった大きな成果です。以前まで、排泄介助は決まった時間内で追われるように行われていました。「おむつナビ」導入後、センサーが不快ゾーンに達した時にパッドを交換するようになり、交換回数が減ったことで、職員が一人一人のご利用者様と個別で深く向き合えるようになりました。次の交換タイミングがわからないからこそ皮膚の状況を注意深く見て、丁寧に介助しようという気持ちが芽生えているようです。
介護施設・ロボット開発会社・行政で
連携し、介護の質を高めていく
──さがみロボット産業特区の支援を受けられてみて、いかがでしたか?
わかたけ富岡 藤井さん:介護業界に向けた介護報酬が少なくなるなかで、こういった支援は大変ありがたいことです。元々、当法人では介護の質を上げようと色々な取組をしており、さらに支援があることで積極的に取り組めていると思います。
──ロボット導入でさらに解決したい課題、または、さがみロボット産業特区に期待することについてお聞かせください。
わかたけ富岡 藤井さん:今後もわかたけ富岡では職員の負担を軽減するため、介護用ロボットやIoTデバイスなどを積極的に取り入れて、職員とご利用者様が関わり合う時間を増やし、より丁寧なケアができるようにしていきます。
以前まで排泄の分析を手動で行っていたため、ご利用者様と関わる時間が減っていましたが、「おむつナビ」を導入して職員とご利用様が関わる時間が増えました。他にも、例えば会議の資料や議事録を作るのに多くの時間を費やしていますが、自動議事録作成ソフトなどを用いれば時間も手間も削減できるでしょう。
わかたけ富岡 加藤さん:施設が福祉機器を導入したいと思っても、すでにある機械と連携できないことが多くあります。一つひとつの機器は良いものなのに、連携できないことで、結局手間がかかってしまっている施設が多いようです。施設によっては、福祉機器を探す余力もない状況です。そのため、福祉機器をパッケージでご提案いただけると大変ありがたいです。
わかたけ富岡 市川さん:現場での仕事は、職員の経験と勘に頼る場面が多くあります。「おむつナビ」を導入して客観的な根拠に基づいたケアが行えるようになったので、今後も排泄だけではなく他の場面でも最新のツールを積極的に使って効率化を図っていきたいです。
光洋 成田さん:現在、弊社のセンサーは排尿のみ検知するので、今後は排便にも対応し、排泄ケアをトータルでサポートしていけたらと考えています。
弊社は、介護される側も介護する側も快適な排泄ケアを提供することを掲げています。今回のように職員さんの負担を軽減することで、ご利用者様に還元される面があると思いますので、これからも職員さんにも寄り添ったアプローチをしていきたいです。
さがみロボット産業特区に対しては、すでに十分支援をいただいていますが、さらに企業間のマッチングの機会を増やしていただけたらと思います。介護施設さんから「企業同士の製品を連携してほしい」とリクエストをいただくことがありますが、現状企業だけで連携するのは難しい状況です。例えば、見守りロボットと排泄センサーを連携させるようなワークショップがあると良いですね。現在もマッチングを行われていると思いますが、これからも神奈川県に先導いただけると助かります。
──ロボットの導入を検討されている施設の方へ、メッセージをお願いします。
わかたけ富岡 藤井さん:当法人は、職員の負担軽減や介護の質を高めることなら積極的に取り入れる姿勢です。現場の声を大切にして、何かを取り入れる際は上から「これを使いなさい」というよりも、現場に大枠の意図だけ伝えて「現場で適切なツールを選んで、運用してください」というスタンスです。もし取組が失敗に終わっても、それを追求することはありません。プレッシャーが無いなかで、現場主導で動いていくのが良いかと思います。
わかたけ富岡 加藤さん:今回、「導入実証サポート」に応募する際、施設の課題を深掘りできたのが良かったと思います。課題が明確なほど、成果が出やすいと感じました。ぜひ、応募の段階で課題を明確にしてみてください。
わかたけ富岡 市川さん:わかたけ富岡では「おむつナビ」に加えて、ご利用者様の体動(寝返り、呼吸、心拍など)を計測できるシート状のセンサー「眠りSCAN」も導入しています。眠りが浅くなったタイミングで排泄介助に入り、わざわざ眠りが深い時に起こすことが減りました。このようにご利用者様のQOLが向上し、職員の負担も軽減できるので、積極的に介護用ロボットやIoTデバイスなどを取り入れてみてはいかがでしょうか。
<県の支援事業>
県の「ロボット導入支援補助金」の詳細は、次のウェブページをご覧ください。
https://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/detail/03.html#step3-11
ほかのロボットも含めて導入を相談したい、導入後の運用方法の見直しも相談したいという場合は、県が設置しているロボット実装促進センターに無料で相談ができます。
https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/0604/jisso_center/
「おむつナビ」以外の実証実験の結果等は、ロボット導入サポートブックとして、次のウェブページにまとめられています。
https://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/supportbook/
