さがみでつながる!開発企業インタビュー

負担の大きい医療現場に貢献。
ボタンひとつで使える「殺菌灯搭載ロボット」。

今、全国の病院で導入され始めているのが、紫外線照射ができる「殺菌灯搭載ロボット」です。ひっ迫する医療現場の負担を軽くするために、安全で簡単に使えるロボット導入を目指して課題解決に挑んだ道のりを、株式会社スマートロボティクスの取締役 技術統括責任者 (兼)技術営業本部 開発部 部長である松田啓明さんに伺います(記載内容は2022年度時点のものです。)。

インタビュー

松田 啓明

株式会社スマートロボティクス
取締役 技術統括責任者 (兼)技術営業本部 開発部 部長

電気通信大学大学院在学中よりロボット研究に従事。ライフロボティクス(株)を経て、2018年に(株)スマートロボティクス入社。さまざまな社会問題解決ロボットの研究開発を進め、2020年にはコロナ禍のニーズに応えた「テレワークロボットTM」を開発。さまざまなカスタマイズをするなかで、医療現場に向けた「殺菌灯搭載ロボット」をリリースし、現在もさらなる進化に向けて研究を重ねる。2022年2月より現職。

松田 啓明(株式会社スマートロボティクス)
面倒な設定は不要。タブレットで誰でも簡単に操作することができる。
「テレワークロボットTM」から発展。
最初の壁は、実績をつくること

──「殺菌灯搭載ロボット」は、どのような課題を解決するために開発されたのでしょうか?


病院などの除菌作業は主に人の手によって行われているのですが、コロナ禍でさらに大変な手間のかかる作業になっているとお聞きしました。特に感染者がいるエリアは防護服を着なければならず、危険性も高いし精神的な負担も大きい。そこで、作業スタッフさんの感染リスクや心理的不安を低減できるように、遠隔操作などで安全に除菌作業を行えるロボットを開発しました。


──つまり、開発のきっかけはコロナ禍ということですか?


そうですね。2020年4月に緊急事態宣言が出されてから、人が移動して会うという、それまで当たり前だったことができなくなりました。お客さまからも現場に行けなくて困っているという声を聞いて、我々の持っているテクノロジーで何か解決できないかと考えました。そこで開発したのが、「テレワークロボットTM」です。このロボットは、現場に行かなくても、遠隔地からコミュニケーションや見回り、物を運搬することができます。


──原点は「テレワークロボットTM」なのですね。そこから殺菌灯を搭載することになったのは、何がきっかけでしょうか?


医療現場が新型コロナウィルスの対応に追われていると報道されていて、ここにニーズがあるのではと考え、先行事例などを調べながら殺菌灯搭載ロボットの「モデルA」を開発しました。事前に特別な設定は不要で、電源を入れてゲームコントローラーで簡単に操作できるのも特長です。私たちは“Robots for everyone.”というビジョンを掲げていますが、ロボットが活躍できる場面を産業ロボット界以外にも広げていきたいと考えていて、専門家のシステムアップが不要な、簡単に使えるロボット開発を心がけています。


──誰でも簡単に使えるロボットという大きな特長があるのですね。ご苦労された点は何でしょうか?


一番大変だったのは、開発した後です。医療業界へのロボット提供は初めてだったので、病院に直接ご連絡したり、医療関係の商社さんにアプローチをしました。しかし、そこで必ず「実績は?」と聞かれました。第1号だから、実績はまだないわけで……。そこは非常に苦労しました。


──そのような状況を、どのように乗り越えられたのでしょうか?


ここから、神奈川県に助けていただいたというところにつながります。2020年6月、新型コロナウイルス感染症神奈川県対策本部の協力の下で、初めて実証実験をすることができました。新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養施設で、見取り図と設置されているカメラから見える映像を見ながら私が遠隔操作しました。完全に入れない空間で使用したのは初めてで、大きな成果を上げることができたと思います。実証の実績ができたと同時に、同じフロア内でも場所によって電波が届きにくいところがあるといった課題も確認できました。


実証実験で成果を上げ、さらに進化。
設定なしで動く自律走行ロボットに
歴代の「殺菌灯搭載ロボット」。左から、モデルA、モデルB、最新型のモデルC。使いやすさを考慮し、ハンドルや台座の形状なども進化した。

──そこから、さらに進化していくわけですね。次はどのようなことに挑戦されたのでしょうか?


このロボットはコロナ禍で開発したので、お客さまの声の収集も不十分でした。そこで、お客さまの声を多く集めたほうが製品としてブラッシュアップされると考えて、実証実験の翌月、2020年7月に神奈川県の「ロボット共生社会推進事業」に応募しました。辻堂駅周辺の「かながわロボットタウン」で活用できるロボットの実証実験などを支援するもので、私たちの「殺菌灯搭載ロボット」も採択していただきました。


──「ロボット共生社会推進事業」では、どのような成果を上げることができましたか?


2020年12月に、善行中学校や大型ショッピングセンターのテラスモール湘南で実証実験を行うことができました。中学校では教室や廊下のほか、トイレも照射をしましたが、その消臭効果には先生方もすごく驚いていました。使う環境が違うと利用者側の要望も異なり、新しい利用価値や可能性を得られると思いました。あとは、学生さんにロボットとふれてもらう時間も作ったのですが、ロボットにとても興味を持ってくれて嬉しかったです。


──子どもたちとの交流という、また別の意味での成果を上げられたのですね。それからは、どのようなバージョンアップが進められたのでしょうか?


モデルAはもともとテレワークロボットTMから派生したものだったのですが、病院での導入実績も出ていたので、除菌に特化したものとして、2021年4月にモデルBを開発しました。お客さまのご要望にお応えして紫外線灯の配置変更や床面照射の追加、より効率のよいミラーに変えて、本体も軽量化しました。バージョンアップというよりは、新しい製品に近いですね。それと、紫外線は人体にも有害なので、人影を検知したら照射できないようなアシスト機能も開発しました。


──2022年春には、早くもモデルCを発売されています。ここでは、どのような進化があったのでしょうか?


遠隔操作する際のコントローラーがスマートフォンからタブレットになって、より見やすく、操作しやすくなりました。一番大きいのは、自動で動いて除菌する機能がついたことですね。多くの自律走行ロボットは最初に走るルートを設定しなければならないのですが、これが一般の方には結構難しい。このロボットは、部屋に入れてボタンを押したら勝手にロボットが探索して、自分で地図をつくり、じゃあ、ここをこうやって走ろうと決めて除菌します。


──ボタンひとつでそれができるのは素晴らしいポイントで、まさに“Robots for everyone.”ということですね。


そこは我々の信念で、エンジニアの想いだけで独りよがりな物を出してはいけないと考えています。病院では皆さんが駆け足で作業されているので、ロボット操作にたくさんのステップは踏めません。どういう状況で誰が使うのかというのが一番重要だし、そこに対して真摯にならなくてはいけないと、会社でもいつもみんなに伝えています。技術だけが先行して、使われないものになったら悲しいですから。


提供するのは、ソリューション。ロボットはその手法のひとつ
提供するのは、ソリューション。
ロボットはその手法のひとつ

──現在、医療機関を中心に全国で約50台が導入されているとのことですが、どのようなお客さまの声が聞かれるでしょうか?


一番大きいのは、安心・安全に寄与していると伺っています。防護服を着て危険かも知れないというところへ入るのはものすごく緊張を強いられるし、そもそも着替えや準備で時間もかかってしまう。そこに入らずに済むという安心感と、時間が削減できるというメリットがあります。病院でお話を聞いていて、従業員の皆さんのことをとても大事にされているところに感動しました。その想いに、我々としてもどうしても応えたいと思っています。


東名厚木病院様の声

◎導入して良かったと思うこと

今までは感染の可能性があるエリアの消毒作業を看護師が対応していましたが、ロボットは部屋の外から遠隔で作業をすることができるため、看護師以外でも作業が可能になりました。その結果、看護師の作業や心理的負担が軽減しました。
また、ロボット照射をすることでリネン類や空間の除菌効果も期待できるため、今までの作業時間や換気のための時間を削減することができました。
除菌作業の時間を削減できたことで、患者様をお待たせする時間を短くすることができました。

◎スマートロボティクス製品を選んだ理由

デモで除菌の能力に問題がないと確認ができ、結核菌などコロナ以外のウイルスや菌にも効果があり、今後も活用できる可能性があると思いました。

──今後の「殺菌灯搭載ロボット」の展望をお聞かせください。


除菌の話って、コロナが終わったら終わるんじゃないかという意見をいただくこともありますが、コロナ以外の除菌でも使用いただけますし、喫煙所の消臭など新たなユースケースも見つかってきています。そもそも、我々もこれをコロナ対策のロボットですと言っているつもりもなくて、日々のお手入れで高レベルの衛生を保つ活動に使っていただきたいと思っています。そして、お客さま自身がお気付きにならない利便性を発掘し、そのなかで新たな要望を機能に反映していくことを考えています。


──今後、さがみロボット産業特区に期待することをお聞かせください。


我々のようなロボット開発メーカーは、試す場というのが非常に重要なんですよね。今後もそういう機会をいただければ、すごくありがたいと思います。今回、実証実験の場をマッチングしていただいてどれほど嬉しかったことか……。私たちが突然学校へ行って、「実験したいんです」というわけにいきませんから。あとは、2021年4月に「ロボット導入支援補助金」の対象ロボットに採択されたのも大きかったですね。こういう支援は、本当に助かります。


──最後に、さがみロボット産業特区に関心を持っている企業さま、技術者の皆さまに向けて、メッセージをお願いいたします。


実は、私たちもここまでサポートしていただけるとは思っていませんでした。ご相談できる先があるということ、ロボット開発分野にご理解をいただけることはありがたいですね。何か悩んでいたら、とりあえずさがみロボット産業特区に声をかけて、どんどん聞いてみるというのが一番かなと思います。

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