ロボット導入事例インタビュー ロボット導入事例インタビュー

広大なイノベーションの舞台で案内ロボットが活躍!
入居企業の負担軽減、先進事業のブランディングにも貢献

さがみロボット産業特区では、県内施設におけるロボットの活用を推進するため、ロボットの導入実証等さまざまな支援を行っています。今回ご紹介するのは、127のライフサイエンス系の企業や団体(2024年10月現在)が結集する研究施設「湘南ヘルスイノベーションパーク」(以下通称:湘南アイパーク)です。
実証したロボットは、株式会社アルファクス・フード・システムの「αフロントミニ」。来館者がロボットのタッチパネルに表示された「行きたい目的地」を選択すると、ロボットが自動走行して、誘導してくれます。本格導入までの課題や成果、現在の状況について、湘南アイパークを運営するアイパークインスティチュート株式会社のパブリックアフェアーズ課長代理、太田 佑さんにお話を伺いました。

インタビュー

太田 佑

アイパークインスティチュート株式会社
パブリックアフェアーズ 課長代理

太田 佑(アイパークインスティチュート株式会社)
来館者を出迎えるため、400メートルの移動があることも。
入居企業のデメリットを解消するために

──はじめに、湘南アイパークでロボット導入を検討された目的についてお聞かせください。


当時の優先順位としては、来館者の案内業務が1番でした。
湘南アイパークは延床面積が約30万平方メートルと広大で迷ってしまうこともあるため、来客の際には入居企業の方が入口まで迎えに来ることが多いです。廊下の長さはおよそ400メートル、新幹線1編成分です。入口からもっとも遠い入居企業は、来館者を迎えるたびにこの距離を往復することになり、時間にしておよそ10分近くの移動コストがかかることになります。
入居企業のデメリットとなっているこの案内業務をロボットで代替できないかということが、第一の課題でした。


──イノベーションの加速を目指した広大な施設ならではの課題があったということですね。その他にはどのような目的がありましたか?


2番目は、湘南アイパークの説明案内業務です。日頃、外国の方含め多くの来館者が訪問され、湘南アイパークとはどんな施設で、どういった企業が集積しているのかについて大変関心を持たれます。現状は、入居企業や我々が説明をしていましたが、ロボットで対応できないかと考えました。
3番目は、ブランディングです。先端技術を使った案内やセキュリティ対策は、湘南アイパークの先進的なブランドイメージにつながります。ゲストの方もロボットに案内されれば「面白いな」とワクワクするでしょうし、イノベーションにつながる場というイメージが伝わるのではないかと思いました。


──ブランディングも含め、すべては入居企業の皆さまの快適な利用と価値向上につながりますね。


はい、その通りです。我々は入居されている企業やスタッフの方がいかに快適に、かつ安全に過ごせるかという環境を考えていく必要があります。
湘南アイパークが他のサイエンスパークと比較して非常に高く評価していただいているのは、同じ建屋のなかに127もの企業・団体が集積されていることによるお互いの距離の近さがイノベーションに繋がることと、それだけのスケールがあるということです。そのため、広さは必要なのですが、それによって生じる課題を解決するためにロボットの導入を検討したいと思い、県のロボット実装促進事業の導入実証サポートに応募しました。

導入実証スタート。徹底した安全対策とアナウンスで、
混雑するランチタイムのテストランも見事にクリア!

──湘南アイパークの課題を解決するロボットとして県に採択された案内ロボットは、株式会社アルファクス・フード・システムの「αフロントミニ」でした。実際に導入実証を始めた際に、もっとも重視した点は何でしょうか?


安全面は絶対に妥協できないので、アルファクス・フード・システムさんとも特に丁寧に話し合って進めていきました。まず、走行ルートの周囲にガラスがあったので、仮にロボットが転倒してもガラスに接触しない距離を確保すること。これは、走行ルートに禁止線を設定することで解決しました。
もうひとつ、移動中に「曲がります」、動き出すときには「動きます」など、周囲に音声で案内するようにしたいとアルファクス・フード・システムさんに伝えると、そこまで丁寧なアナウンスは想定されていなかったということで、初めは驚かれていました。


──2024年1月から2月まで、約1か月間の運用テストも行われました。ここではどのような成果が得られたのでしょうか?


入居している皆さんは、研究室や執務室にいるため、勤務時間中は廊下にあまり人はいません。そこで、安全性を確認するためにあえて混雑するランチタイムに100回ほどテストランを行いましたが、まったく問題なく運用できました。
もう1つの試みとして、湘南アイパークの特徴や歴史などを紹介している「湘南コーナー」で巡回しながら湘南アイパークの施設や展示物の説明をするというテストランも約120回行ったところ、こちらもうまくいきました。
テストを経て、さらに操作性を高めるためにインターフェイスなどもバージョンアップしました。


──安全面の担保と、展示物説明での活用という成果も得られたのですね。逆に、何か課題は見つかったのでしょうか?


ロボットとエレベーターとの連携ができていないため、違うフロアへの案内は課題となりました。また、1台のみの稼動だと、ロボットが戻ってくるまで次の人が待たなければならないというのもありました。
そのため、当初想定をしていた案内業務とは、違う方法を検討することにし、新たに廊下を走行しながら湘南アイパーク内で開催するイベントなどを告知する「広報」というアイデアが生まれました。来館者案内と移動ルートは同じですが、使い方を変えてみようということです。


──新たな活用シーンが生まれたのですね。翌月の3月には本稼働、そして導入となりました。決め手は何だったのでしょうか?


湘南アイパークのスタッフにアンケートを取ったところ、90%が導入に賛成という結果になったのが決め手です。「英語でも対応できるのが良い」「案内の工数を削減できる」「操作が簡単」という使い勝手の良さに加え、「1台いるだけでイノベーティブな雰囲気になる」「非日常感を演出できる」「楽しい感じになる」など、ブランディングにつながるという意見も多く届きました。

廊下を移動しながらの広報活動も手応えあり!
今後のアップデートでは、新たな展開も

──本導入後からおよそ5カ月が経過した現在、利用状況はいかがでしょうか?


湘南コーナーではQRコード(注)で予約すればいつでもロボットを使えるようにしており、コンスタントに活用されています。うれしいのは、リピーターが多いという点ですね。一度使ってもらうことで、効果を実感できるということだと思います。
イベントの告知で廊下を走らせた際に、参加された方に「ロボットによる広報を見ましたか?」と聞いたところ、6割から「見た」という回答があり、広報活動に活用できることを確信しました。また、湘南アイパークでは地域に開かれた施設を目指した一般開放イベントを開催しているのですが、そこでも子どもたちに大人気でした。これもブランディングにつながりましたね。
注記:QR コードという名称は、株式会社デンソーウェーブの登録商標です。


──今の課題や、今後に期待することはなんでしょうか?


優先順位の第1位だった各研究室への案内については、エレベーターの運用会社などとの連携といった課題がクリアされれば、また新たな可能性も出てくると思います。アルファクス・フード・システムさんは常にいろいろな研究開発をされているので、アップデートされた機能などを教えていただく形で連携を取りながら、今後も協力しあっていきたいと思っています。


──最後に、さがみロボット産業特区に期待することを教えてください。


湘南アイパークはライフサイエンスの企業や団体が結集してイノベーションを加速するということが目的なので、入居する方々がより成功しやすいような環境づくりや補助金などで、さらに協力関係を築いていければと思います。
私たちも、このようなさがみロボット産業特区の事業がなければロボットを実装する機会はなかなかありませんでした。非常に良いきっかけをいただいて良かったです。ありがとうございました。



<ロボット開発企業に聞きました>

想定外のニーズに驚きましたが、
大きなチャンスとなりました。

菊本健司

株式会社アルファクス・フード・システム 常務執行役員

写真右

私たちは主に飲食店で使われるロボットを開発しているので、オープンで広大な研究施設というニーズは初めてのチャレンジでした。館内では、想定していた以上のきめ細かなアナウンスを求められ、最初は驚きました。飲食店と違い、湘南アイパークさんの来客は、“一期一会”。そのための注意事項を考えていくというのは私たちにとってカルチャーショックであり、とても新鮮でしたね。
おかげで私たちもいろいろなヒントをいただいて、実績を重ねることができました。今回のプロジェクトでは神奈川県からチャンスをいただき、湘南アイパークさんに育ててもらったと感じています。ロボットにはもうすぐ監視カメラ搭載の目途が付くので、また新たな展開について、太田さんと一緒に研究していきたいと思っています。


<県の支援事業>

今回の導入実証は、県の「ロボット実装促進事業」の導入実証サポートで行われました。
今回の事例の詳細は、ロボット導入サポートブックとして、次のウェブページにまとめられています。
https://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/supportbook/

自社の施設にも導入したいという場合は、県が設置しているロボット実装促進センターに無料で相談ができます。
https://www.pref.kanagawa.jp/osirase/0604/jisso_center/

また、案内ロボット「αフロントミニ」を購入される場合は、県の「ロボット導入支援補助金」で導入経費の一部の補助を受けられます。詳細は、下記のウェブページをご覧ください。
https://www.pref.kanagawa.jp/docs/sr4/robot-donyu-hojo.html