さがみでつながる!開発企業インタビュー

広く使われ、人の役に立つロボットを。
技術先行ではなく、困りごとが原点の「マッスルスーツ」

人工筋肉を採用した「マッスルスーツ」を主軸とし、働く人を支える企業としてグローバルに展開する株式会社イノフィス。夢のようなロボットではなく「人に役立つロボット」を創出するという考えのもとで歩み続けてきた道のりや、さらに視野を広げていく今後の展望について、代表取締役社長である乙川直隆さんに伺いました(記載内容は2023年度時点のものです。)。

インタビュー

乙川 直隆

株式会社イノフィス 代表取締役社長

国立研究開発法人産業総合技術研究所にて、近赤外センサの開発に従事した後、当該技術を事業化するためのスタートアップに参画。2007年に一括一貫の総合モノづくり力が強みの株式会社菊池製作所に入社。2013年にイノフィスの創業に立ち合い、以来菊池製作所の一員としてイノフィスの経営の側面支援に従事し、2023年に代表取締役に就任。「世の中に本当に役に立つロボットを提供する」というミッションを実現するため、事業を展開している。

乙川 直隆(株式会社イノフィス 代表取締役社長)
あらゆる方法を模索してたどり着いた、
「考え方はハイテク、構造はシンプル」という答え

──電力不要という大きな特長を持つ「マッスルスーツ」は、今や国内のみならず海外にも市場を広げています。はじめに、その仕組みについて教えてください。


「マッスルスーツ」は、筒状のナイロンメッシュでゴムチューブを包んだ「McKibben型人工筋肉」を採用しています。ここに空気を注入するとチューブが膨張してメッシュが広がり、縦方向の収縮を伴う引っ張り力が発生するという仕組みです。
腰の補助に特化したタイプは、これを背中のフレームに内蔵しています。かがんだ際に人工筋肉が引っ張られ、それに伴い内部の体積が減るので圧力が高くなり戻ろうとする。膝に固定したパットが支点となり、上半身を起こす力に変換されるという構造になっています。


──「人工筋肉」がカギなのですね。原点は東京理科大の研究室とのことですが、いつ頃から、どのような考えのもとで進められてきたのですか?


イノフィスの創業者であり、東京理科大学教授である小林宏は、2000年から研究テーマとして「人の役に立つロボット」を掲げ、マッスルスーツの開発を進めてきました。あらゆる方法を模索してきたので、人工筋肉の前にモーターを使うことももちろん検討しています。しかしながら、本当に使える製品と考えると、考え方はハイテクでも構造はローテク、よりシンプルなものにしなければならない。モーターを使って大きな力を発生しようとすると、バッテリーも必要で大きく重くなるため、軽くて大きな力を生み出す人工筋肉が最適と考え、開発を開始しました。


──そこから現在の「マッスルスーツ」に至るまで、どのような転換点があったのでしょうか?


2013年に製品化のめどが立ったので創業し、翌年にリリースした製品は、電磁弁で空気を出し入れするボンベタイプでした。その後にボンベ不要で同じような効果を発揮する、パッシブ型にしたのが、最初の大きな転換点だと思います。パッシブ型にすることで、ロボットの動きに人が合わせるのではなく、より自然にロボットが人の動きに追随して補助力を発生させることができるようになり、操作性が格段に向上しました。また、ボンベなどの部品もなくなり、より軽量にもなりました。


──実際に装着してみると、「アシスト感の強い補助力」ではなく、まるで自分の力で持ち上げているような「自然な補助力」が得られて驚きました。そこには、「パッシブ型」にするという発想の転換があったのですね。


そうですね。パッシブ型にすることについては、大きな技術革新があったのかといえば、そうではありません。我々も最新の技術を駆使して、「ザ・ロボット」といえるものをつくろうと思えばつくれるわけです。しかし、それは使い勝手が良いものだろうかという観点で見ると、必ずしもそうではない。世の中で使いやすいものをつくるという構想がポイントなので、そこは考え方の転換ですね。


市場に出し、声を聞き、進化していく。
特区の支援が力となったサイクル

──さがみロボット産業特区の支援は、創業して間もなくスタートしています。経済産業省の導入実証事業の申請支援、実証実験先の紹介などのサポートを受けられていますが、どのような点が特に成長に結びついたとお考えでしょうか?


大きなステップアップという意味で言うと、2014年の経済産業省の導入実証事業に申請して採択されたことですね。そして一番ありがたかったことは、使っていただくお客さまをどんどん紹介していただいたことだと思います。


──ほとんど製品が出来上がった状態で創業されたからこそ、すぐに市場へ発信することができ、多くの声を得られたということですね。


我々は創業する3年以上前から訪問介護入浴サービスの企業と連携していて、現場の声を受け止めながら研究開発を進めてきたので、恵まれたスタートアップだったと思います。それでも、さらにいろいろな声をいただかないと次のステップには進めません。そういったなかで、さがみロボット産業特区から介護施設などを紹介していただいたことは大きかったと思います。
広く使っていただくことで、我々も導入事例としてホームページなどで紹介できます。これが、技術的なプレゼンテーションをするよりも一番効果があるんですよ。


──お客さまを紹介するという支援のほかに、認知の拡大という面ではいかがでしょうか?


さがみロボット産業特区にはネームバリューがあり、カタログなどもしっかりしていて、イベントも多い。そういった場でかなり取り上げていただいたんですね。広めていただく、知っていただく、使っていただく、声をいただく。そこから問題点は改善する、新しい製品をつくる、また特区に扱っていただいて、認知を広めてもらう。そういう良いサイクルを一緒につくれたことが、我々の大きな成長につながったと思います。


──2019年には、「マッスルスーツEvery」が特区発の商品としてリリースされ、神奈川県の導入支援補助金の対象となりましたね。


もう一歩、導入の後押しをしていただくような補助金をつけていただいたことで、普及という面をさらに助けていただきました。
多くのスタートアップの壁になっているのが、市場に普及しないことでお客さまの声が出てこない、だから次は何を開発していいかわからないということではないかと思います。我々は、そこも徹底的に支援していただきました。


いつまでも働き続けられるよう健康を維持すること、働きやすい職場環境をつくることがミッション
いつまでも働き続けられるよう健康を維持すること、
働きやすい職場環境をつくることがミッション

──「マッスルスーツ」は累計25,000台以上を販売し、今や日本のみならずヨーロッパ・アジア・北米の世界18か国で展開されています。今後の展望をお聞かせください。


我々のミッションは、大きく分けて2つあります。我々の技術で、いつまでも元気に働き続けることを実現する、職場を働きやすい環境に変えていく。この2つに寄与していくことが目標です。
ロボット開発はミッションを達成する手段のひとつ。提供していくのはものづくりであったり、ソフト開発などのITかも知れないし、それ以外の何かかも知れない。ひとことで言うとソリューション、お悩みを解決していく手段をもっとたくさん提供できる会社に業務拡大していく、それがイノフィスの目指す道だと考えています。


──今、注目されている社会課題は何でしょうか?


今はBtoBだけでなく、BtoCにも目を向けています。特にビジネスケアラーに注目していていて、国も企業の取り組みを推進しているので、福利厚生の一環としてのアプローチもできると思っています。
そういった流れの中で「アシストスーツ」が一般的になれば、競合も増えるでしょう。そうすれば市場がもっと成長して、お求めやすい価格になっていきます。だから、競合はドンと来い!ですね。我々は皆さんより一歩早く製品を出して、業界をリードしていきたいと思っています。海外にも、より一層積極的に展開していく予定です。


──最後に、さがみロボット産業特区に関心を持っている企業さま、技術者の皆さまに向けて、メッセージをお願いいたします。


県庁に行ったり、特区に相談することは、ものすごく敷居が高いことかも知れません。そもそも何をサポートして欲しいのか、最初はそんなことさえもわからないと思うんですよね。我々もとにかく普及させたい、なんとかしてくれ、助けてくれというところからはじまって、かなり無茶を申し上げながら、いろいろと相談してきました。思い切って飛び込んでみると本当に至れり尽くせりで、かなり細かく指導していただけます。
あとは、いろいろなところでイベントもやっているので、我々も積極的に参加するようにしています。そうすると神奈川県とのつながりも深くなりますし、新たな企業やお客さまとの出会いもあります。将来的には企業とさがみロボット産業特区がWin-Winになる、そんな関係がここから築いていけるのではないでしょうか。



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