写真左:株式会社エルエーピー 代表取締役社長 北村正敏さん 写真右:さがみロボット産業特区グループ 主査 山岡清志
さがみでつながる!開発企業インタビュー

麻痺した関節を動かし、リハビリをサポート。
専門知識ゼロで始めたロボット開発が現実に!

さがみロボット産業特区からは、これまでにさまざまなロボットが商品化されています。
その第1号は2014年、株式会社エルエーピーが開発した「パワーアシストハンド」でした。
代表取締役社長の北村正敏さんに、これまでの歩みや商品の特長、今後のビジョンなどを伺いました。
写真左:株式会社エルエーピー 代表取締役社長 北村正敏さん 写真右:さがみロボット産業特区グループ 主査 山岡清志
※感染症対策に十分留意してインタビューを実施しました。

インタビュー

北村正敏

株式会社エルエーピー
代表取締役社長

東京写真大学卒業。カメラマンとして撮影スタジオに勤務した後、1979年に株式会社スタジオ246を設立。2009年、ロボット研究開発拠点都市推進プロジェクト「チームアトム」を仲間6人で設立。2010年より、片麻痺のリハビリ治療ロボット開発、製造に着手する。
2013年、株式会社エルエーピーを設立し、翌年に「パワーアシストハンド」を発売。その後も新商品の開発を続け、リハビリ訓練をより身近なものにしたいという信念を持って事業を展開している。

北村正敏(株式会社エルエーピー)
自社スタジオをオフィスとして活用し、ロボット開発事業を展開
仲間とチームを結成し、
ロボットを研究する工学博士のもとへ

──株式会社エルエーピーの原点は、2009年に仲間と立ち上げた「チームアトム」だったとお聞きしています。どのような経緯で、チームを設立されたのでしょうか?


2008年にリーマン・ショックで経済が疲弊し、高齢化も進むなかで、この地域を何とかしたいという気持ちが出てきたんですね。そこで自営業の仲間たちに、「おやじ軍団で何かやらないか?」と、声をかけたんです。私は写真スタジオを経営するカメラマンで、あとは酒屋や印刷屋、看板屋など、まったくロボットとは無縁の人間ばかり、6人が集まりました。


──そこから、なぜロボット開発をしようと考えたのでしょうか?


この地域は、自動車産業で発展した会社が多かったんです。ところが企業が海外に拠点を移すことで、空洞化が起こってしまいました。もともとの強みだった製造技術と、高齢化社会という課題。この2つをつなげて思い浮かんだのが、人を助けるロボットです。町おこしと言うのも生意気なのですが、そんなことをテーマに動き出そうということになりました。


──チームの皆さんで、最初に取り組んだことは何ですか?


まずはロボット研究の専門家に相談しようと、テレビで見た神奈川工科大学の工学博士、山本圭治郎特任教授に直接連絡をして、会いに行きました。山本先生は介護者を支援するロボットを研究していて、そういったものをぜひ私たちに作らせてくれないかとお願いしたんです。すると「地域のためなら」と、ご自身が取得されている「関節支援装置」の特許使用を許諾してくださいました。空気圧で関節を動かす装置で、これが今のロボットの基礎になりました。


──その装置から、どのようにロボットを開発していったのでしょうか?


実は、ここから商品化するには数十億円かかると聞かされ、「とんでもない!」ということで、しばらく話が進みませんでした。そんなときに山本先生から「脳梗塞の後遺症で、手指の麻痺に困っている人のリハビリ用ロボットを作らないか」と言われたんですね。ある病院の先生から相談されたとのことで、手指用なら予算が抑えられるんじゃないかと。


──大きなチャンスの到来ですね。ここから本格的に開発が始まったのですね。


そうですね。でも、最初は「これがロボット?」という感じでした(笑)。教授が見せてくれた手作りの原型は、白い手袋の指にジャバラが付いていました。私たちは人型のロボットを目指していたのに、手だけですからね。でも、ここから自分たちが描く未来像につながればいいかなと思いました。それから手袋の生地を探したり、装着しやすい形状を考えたり、仕事が終わってからみんなで集まって夜な夜な考えました。


特区のサポートで補助金を獲得
会社を設立し、ついに商品化へ
さがみロボット産業特区商品化第1号「パワーアシストハンド」

──その後、2013年に株式会社エルエーピーを設立されました。それまでの経緯を教えていただけますか?


2011年に黒岩知事と意見交換できる「対話の広場」という集いに招かれて、ロボット開発の事例として発表できました。2013年にさがみロボット産業特区ができてから、さらに県がいろいろと協力してくださり、私たちも火が着いちゃったという感じです(笑)。まず、チームアトムは予算が厳しい集団なので、「国の補助金を活用してはどうか」と提案されました。「申請書なんか書いたことないし、まるでわからないし、無理です!」と答えたのに、とにかく一生懸命に何度も説明をされるんです。そこで、トライしてみようかということになりました。


──補助金申請は大変だったのではないでしょうか。どのような支援がありましたか?


それは大変でしたね、やっぱり。でも、特区の担当の方が書き方を丁寧に教えてくれるんです。それで何とか書いて送ると、「ここを修正してください」と言われてしまって、またみんなで考えて、書き直して(笑)。国の補助金に申請(※)したんですが、すべて通りました。私たちは何にもわからなかったので、このサポートは大きかったですね。エルエーピーを設立したのは、その後です。
(※2013年~2018年の間に、医工連事業化推進事業、ロボット介護機器開発・導入促進事業、ものづくり中小企業・小規模事業者連携支援事業に申請し、補助金獲得総額 約2億6千万円)


──2014年にはさがみロボット産業特区重点プロジェクトに指定され、商品化第1号として「パワーアシストハンド」が誕生しました。ここではどのようなサポートがありましたか?


商品化してから、特区の方が病院を紹介してくださって、患者さんに使っていただいたんです。使い心地などの感想をいただきましたが、一番大きかったのは色のことでした。当時の色は黒一色だったんですが、女性の方から「もっとカラフルだったらいいのに」「もっとおしゃれな色がいい」という声が上がったんです。それで今のデザイン(黒×オレンジ)に変えて、サイズごとに違う色にしたりもしました。実は色のことはあまり考えていなかったので、意外でしたね。とても参考になりました。


足首のリハビリ用に開発された「パワーアシストレッグ」
 足首のリハビリ用に開発された
「パワーアシストレッグ」

──2016年には、足首用の「パワーアシストレッグ」も発売されました。こちらのデザインもスタイリッシュですね。


このときは県のデザイン支援事業に採択されて、デザイン会社との共同開発になりました。パワーアシストハンドのときも助言してくださった七沢リハビリテーション病院脳血管センター(現・AOI七沢リハビリテーション病院)の山下俊紀先生のところへ何度も訪ねて、患者さんや理学療法士の方に継続使用していただいたんですね。ここで本格的な実証実験ができたことで、いろいろと改善できました。

麻痺していない手と連動してサポートする「モーションリフレクト式パワーアシストハンド」
 麻痺していない手と連動してサポートする
「モーションリフレクト式パワーアシストハンド」
リハビリの大切さを
もっと多くの方に知ってほしい

──2019年には、「モーションリフレクト式パワーアシストハンド」が商品化されました。こちらはどのようなものですか?


これは結構、画期的です。麻痺していない方の手の動きをセンサーが読み取って、麻痺している手を同じように動かすことができるんです。実は医療機器として販売を予定していたもので、その申請のために特区のほうでもサポートをしてくれたんですが、病院で導入されても、リハビリ用の医療機器を使った治療は点数が加算されないという現実がありました。なので、今は他の商品と同じ福祉機器として発売しています。


──リハビリテーションについて、国の体制にも課題があるということですね。


そうですね。国にはもっと、リハビリに力を入れて欲しいと思っています。介護ロボットについては、黒岩知事が国にすごく働きかけたことで介護保険の対象に追加されたんですが、どちらかといえば生活支援の商品が中心。リハビリ用については、まだまだ厳しい規制があります。しかし、リハビリって本当に大事なんですよ。麻痺をそのままにしていたら、どんどん固まってしまう。要介護度も上がって、国の負担も重くなるわけです。そうなる前に抑えることが大事だということは、特区の方も同じ意見です。


──介護保険の対象になれば、より多くの方が気軽に使うことができますね。今後はどのような展望をお持ちでしょうか?


このロボットは麻痺が進まないようにするものですから、効果が実感しにくいんです。実際にレンタルで商品を使っていた方が、「何も変わらないから」と言ってやめてしまったことがあります。でもその後、「固まってきちゃったから、また使いたい」と言ってくれました。やっぱり、継続が大事なんですね。そこをわかっていただきたい。時間がたてばきっと理解されるだろうけど、スピード感は欲しい。その方が、より多くの人の役に立てるということですから。介護保険適用か、値段を下げるか、うまく歯車が回ればと思っています。


──最後に、さがみロボット産業特区に関心を持っている企業さま、技術者の皆さまに向けて、メッセージをお願いいたします。


こんなことが現実にあるんだな、というのが本音です。だって、得体のしれない人間が6人、調子に乗って夢見ただけで、特区の方がどんどん引っ張ってくれたんですから。それも、こっちが勘弁してくれというぐらい(笑)、必死になって動いてくれた。今は、海外展開の話もあります。特区の支えがなかったら、こんなことは起きていません。ロボットに興味があって、今やるべきことがあるという方は、とりあえず特区に言ってみたらいいと思います。自分たちの力量を超えて、それは現実になりますよ。

THANKS