さがみでつながる!開発企業インタビュー さがみでつながる!開発企業インタビュー

高齢者の笑顔を生み出す「PALRO(パルロ)」。
コミュニケーションロボットの成長は、終わらない。

高齢者福祉施設を中心に全国で活躍している、富士ソフトのコミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」。
その誕生のきっかけやこれまでの歩み、そして今後の可能性について、開発当初からプロジェクトに携わっている杉本直輝さんに伺いました(記載内容は2021年度時点のものです。)。

インタビュー

杉本直輝

富士ソフト株式会社
プロダクト事業本部 PALRO事業部 事業部長

ロボットの知能化に関する研究を経て、ヒューマノイドロボットの研究開発に従事。後に、ヒューマノイドロボットのエンジニアとして自社製品である PALRO(パルロ)の開発プロジェクトに初期から参加。2013年、日経産業新聞の特集「産業再興 ニッポンの独創力」の中で、『若き40人の異才』として選ばれた。平成30年より現職。人とコンピューターの新しいインターフェースを普及させるため、コミュニケーションロボットの研究・開発を進めている。

杉本直輝(富士ソフト株式会社)
 PALRO(パルロ)
マーケティングで浮き彫りになった
「高齢者向け」という可能性

──PALROの本格的な開発が始まったのは2010年頃とのことですが、初めから介護業界での実用化を目指していたのでしょうか?


いいえ、最初はまったくターゲットが決まっていませんでした。社内で個々に研究してきた音声認識やAIなどの要素技術を、富士ソフトとしてひとつの形にしようという企画が立ち上がったのが、PALRO誕生のきっかけです。我々はソフト会社ですから、パソコンのキーボードに変わる新たなインターフェイスが実現できるんじゃないか、人型のコミュニケーションロボットはどうだろうかという流れで開発が始まりました。
しかし、実際にコミュニケーションロボットを作ってみると、今度はビジネスとしてどんな役割を担えるのか、どんな人の役に立つのか、という話になりました。


──そこから介護業界へ方向性を定めるまで、どのような経緯がありましたか?


当時の私には、ロボットは工学系などのアカデミックな分野で使われるものだという固定観念があったんですね。ですので、初めは教育機関や研究機関などに、「研究用」としてPALROを提供していました。そこからPALROの新しい可能性を探るために、大学の研究者や学生さんとディスカッションを重ねたり、幅広い年代を対象としたマーケティング調査を毎日のように行っていきました。


──マーケティング調査のなかで、高齢者の皆さまがPALROに出会ったわけですね。


そうですね。我々としては、若い世代が一番興味を持つだろうと推測していました。ところが、実際にはご高齢の方の反応がすごくよかったんです。PALROとの会話で非常に盛り上がり、喜んでくださる。あくまでも推測ですが、動く人型のロボットというのが世代的に憧れだったこともあるかも知れません。皆さまの姿を見て、これは現代の社会課題に対して何か支援ができるんじゃないかと考えました。そこから、高齢者向けコミュニケーションロボットとしての開発が本格的にスタートしました。

さがみロボット産業特区で実証実験。
国への働きかけも
富士ソフト株式会社

──2012年に初期モデルがリリースされ、2013年には、県民の暮らしに大きなインパクトを与えることが期待される「重点プロジェクト」としてさがみロボット産業特区の支援対象に選ばれました。県からはどのような支援がありましたか?


開発するには高齢者施設で実際に使ってもらう必要があるのですが、私たちはソフト開発会社なので伝手がない。どうすればよいのか分からない状態でしたが、県から受け入れ先の調整などを支援していただき、PALROにとって初めての実証実験を行うことができました。藤沢市内の介護施設23か所、それぞれで2週間ずつご利用いただいたことで、これはもう本当に、その後のすべてを決めるほどの大きな成果がありましたね。


──具体的には、どのような成果があったのでしょうか?


認知症の方を含めた高齢者向けコミュニケーションロボットを目指していましたが、当時のPALROはシーズベースだったので、ほとんど会話だけのロボットだったんです。実証の結果、まだまだ言葉のキャッチボールには課題が多いことが分かりました。また、アンケートでは、施設で求められていることが具体的に見えてきました。そういった現場の声を聞いて、歌などのレクリエーションや健康体操などの機能、安全面の改善などハードの改良もどんどん進めていったという感じです。


杉本直輝(富士ソフト株式会社)

──新機能の搭載は、PALROの成長そのものと言えますね。その後も実証実験は続けられたのですか?


そうですね。2014年と2015年には、医療機関が監修したロコモティブシンドローム予防の体操をPALROに搭載して、病院で体操教室を開催しました。そういった実証実験の成果が、2015年の新モデルの商品化につながっています。2016年からは、さがみロボット産業特区のロボット導入支援補助金が始まって、PALROも対象となりました。これは1年目から活用され、PALROの導入が促進されましたね。


──その翌年、2017年に、国の「ロボット技術の介護利用における重点分野」にコミュニケーションロボットが追加されたのも追い風になったのではないでしょうか?


実は、2014年からさがみロボット産業特区にご支援いただいて、厚生労働省と経済産業省へ財政拡充のアプローチをしていたんです。特区や国の実証実験でも成果を上げて、2017年にやっと重点分野に加わったという経緯があります。我々単独ではとても無理な話ですから、そこは本当に助けていただきましたね。ようやく道が開けてきたと感じたのが、この頃です。

杉本直輝(富士ソフト株式会社)
一人ひとりの個性の寄り添う
コミュニケーションを目指して

──現在は個人向けモデルもリリースされ、さがみロボット産業特区の販促支援などもあり、市場が広がっています。これまでの開発を振り返ってみて、一番うれしかったことといえば何でしょう?


ずいぶん前ですが、ある介護施設へ初めてPALROをお持ちしました。その後、別の部屋で説明をしていたときに、「ちょっと見に来て欲しい」と呼ばれたんですね。何かあったのかと思い、慌てて駆けつけると、一人のおばあさまとPALROが楽しそうにおしゃべりをしていました。スタッフが言うには、その方は3か月前に入居されて以来、まったく笑っていなかったそうです。PALROと会って、初めて笑顔を見せてくれたんですね。その時、本当に感動して、「これはやめられない!」と思いました。今でもその風景が鮮明に思い出せるほどです。


PALRO

──PALROが人を癒すことができた、そのシーンを直接ご覧になれたというのは、本当に素晴らしいですね。では逆に、一番つらかったのはどんなことでしょうか?


やっぱり、コミュニケーションの技術的限界を感じたときですね。人と同じように話せるほどの能力をまだ持っていないので、会話がちぐはぐになってしまうシーンはいくらでもあります。技術は進歩しても、そこはやはり、半永久的な課題かもしれません。なので、できるだけ最新の技術をPALROに搭載してご提供したいと、常に思っているという感じです。


──PALROのコミュニケーション能力を高めていくなかで、今後はどのような展望をお持ちでしょうか?


PALROは皆さまに愛されるよう、見た目や言葉選びになるべく個性を持たせないようにしています。一方で、利用される方には個性がある。歌が好きだったり、将棋が好きだったりするわけです。本体としての個性は出さず、相手の個性には寄り添う。その部分はまだまだなので、AIなどを使ってしっかりやっていきたいですね。また、利用者の方だけでなく、介護スタッフの方々にも好きになってもらう、喜んでいただく機能を増やすことで、介護現場全体を見据えたより良いケアが提供できるのではないかと思っています。


──最後に、さがみロボット産業特区に関心を持っている企業さま、技術者の皆さまに向けて、メッセージをお願いいたします。


PALROを高齢者向けに開発しようと決めたとき、我々には介護業界などのコネクションがまったくなく、どうしていいのか分からない状態でした。さがみロボット産業特区の支援を受け、いろいろと相談に乗ってもらえていなかったら、結局、研究機関などの領域に戻っていたと思います。特区に関心があるなら、迷う必要はまったくありません。他の企業とつながるパイプにもなるので、特にB to Bで製品開発するようなシーンにおいては心強いでしょう。ぜひ参加して、我々とも連携していただきたいですね。

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